悪女の汚名返上いたします!~悪役聖女として追放されたのに、私を嫌っていたはずの騎士がなぜか甘々に…⁉~
 その場の全員を部屋の外へ追い出すと、室内は途端に静かになった。
 カチカチと時計が秒針を刻む音がやけに大きく響く。

(あっ、もう、こんな時間。そろそろ夕食会に行かなきゃ)

 支度のために鏡を覗けば、疲れ果てた自分の顔が映っていた。
 
 ふわふわとした金髪に、くっきりとした大きなスカイブルーの瞳。まろやかな卵形の輪郭と、ぷっくりとした唇がトレードマーク。

 亡き母がよく『私の娘は本当にかわいらしい。花の(かんばせ)ね』と褒めてくれていたのを、今でも思い出せる。

 
 ベアトリスは、名門バレリー伯爵家の一人娘としてこの世に生を受け、幼少期は両親にたくさん愛されて育った。

 しかし今から数年前、幸せな日々は突如として崩壊した。
 
 ──あの気弱で泣き虫なセレーナによって。
 

『わたしは……バレリー伯爵の、娘です……!』
 
 セレーナはある日突然やってきて、自らが父の隠し子であると主張し、屋敷の前で騒ぎ始めたのだ。
 
 ベアトリスの父は、自分によく似たセレーナに驚きつつも、不貞行為を否定し追い返した。

 だがセレーナは強情で、何日も門の前で粘り続けた。
 
 変な噂が広まっては困るということで、両親はひとまずセレーナを使用人として屋敷に置くことに決めた。

 それからというもの、優しかった母は別人のようにヒステリックになり、仲が良かった両親は喧嘩がちに。そしてとうとう母は心労がたたり、突然亡くなってしまった。
< 8 / 231 >

この作品をシェア

pagetop