エリート外交官はワケあり妻を執愛で満たし尽くす
 チョコの味はしなかったけれど、ビターなカカオの香りを感じた。

「……は?」

 目を見開いた北斗が自分の口を手で覆い、私を軽く押しのける。

 拒絶されたように感じて胸が痛くなるも、もう少しだけ頑張ることにした。

「きょ、今日はまだ私からのキスをしてなかったでしょ? だから……」

 言いたいのはそれじゃない、と自分に叱咤したけれど、言ってしまったものはもうどうしようもなかった。

「もう少し心の準備をさせてくれるものかと」

「えっと、その……」

 感情を抑え込んだ声色から、北斗の焦りと戸惑いが伝わってくる。

 ただ義務的にキスをしたわけじゃないと、ちゃんと彼に伝えなければ。

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