エリート外交官はワケあり妻を執愛で満たし尽くす
 彼は言葉を選ぶように口を開いたり閉じたりしてから、切なげに私を見つめて言った。

 そうだと答えるべきだったのに、胸の奥が軋んですぐに言葉が出てこない。

 ……彼を拒みきらなくては。そして最低の女だと、嫌われなければならない。

「逆に聞くけど」

 わざと挑発的な態度を取って、彼の感情を逆撫でしようとする。

「あなた、ほかの男性を好きになった女と結婚できるの?」

 彼は──北斗(ほくと)はなにか言いかけて口をつぐんだ。

 私からすると整いすぎている美貌が悲しげに歪み、形のいい唇がよく見なければわからないほど微かに震えている。

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