エリート外交官はワケあり妻を執愛で満たし尽くす
 これは復讐だと、彼自身が言った。

「君が俺を夫として愛する気持ちは否定しない」

 答えになっていなかったけれど、これこそが彼の復讐なんじゃないかと思った。

 愛してくれない人を愛してしまう結婚生活なんて、これ以上の地獄があるだろうか。

 私が求めてしまうものを与えないつもりでいるから、復讐と言ったのだ。

「好きなだけ、俺を愛してくれ」

 再び唇を重ねられると、強い悲しみが込み上げた。

 これからきっと、彼は何度も私にキスをするだろう。

 それ以上のことだって要求してくるに違いないけれど、私には拒めない。

 契約のせいではなく、既に北斗を愛してしまっているからだった。



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