『絶食男子、解禁』
確かにそうかもしれない。
結婚したいと思っていても、結局は相手も同じ気持ちにならない限り、付き合っていても結婚には結びつかない。
「あーいうチャラ男は、本気で好きになった女には一途だと思うんだよな」
「楢崎って、よく見てるね」
「そうか?よくあるパターンじゃね?」
「そうなの?」
恋愛には疎くて、正直分からない。
恋愛経験が全くないわけじゃないけど、ここ何年もそういうことから遠ざかっているせいで、更に鈍くなっているのかもしれない。
「紋でも言ったけどさ。……特別何かをして欲しいとか、ホント無いから」
「……ん」
「逆を返せば、俺に何かを求められても困るっつーか」
「……ん」
「今まで通り、適度な関係でよろしく頼むわ」
「……うん」
彼にして欲しいことなんて何一つない。
そもそも恋愛自体が不要で、今の生活を維持できればそれでいい。
きっと彼も同じなんだと思う。
“恋人”だなんて関係、煩わしいとしか思えなかったのに。
同じ空気を纏う彼となら、何となくやり過ごせそうな気がする。
密室とも思える車内で、男女が隣り合わせになっているのに、甘い雰囲気一つない。
顔見知り程度の社員でさえ、この短い移動時間に変に触ろうとしてくる人も多いのに。
お酒が入っていても普段と変わらぬ彼の態度に、軽く安心感と心地よさを覚えた。
「今日は、ありがと」
「じゃあ、またな」
「ん、おやすみ」
マンションの前まで送り届けて貰ったのに、結局最後までタクシー代を受け取らなかった。
走り去るタクシーのテールランプが見えなくなるまで、私は茫然と眺めていた。