『絶食男子、解禁』
十八時を少し回った時間。
楢崎の帰宅は十九時頃だと聞いていたから、突然の訪問者に思考が追い付かない。
リビングドアのところで静止したのは、ミニスカートが似合うスレンダー美女。
程よく髪が巻かれ、メイクも肌の色に合っていて、どこから見てもお洒落なモテ女子。
「家政婦さん……ですか?」
「……え?」
家政婦?
私、家政婦に見間違えられた?
見るからに上品で、立ち姿ですら見惚れるほど背筋がいい。
もしてかして、元カノ?
えっ、義理のお姉さん?!
だって、勝手に家に上がって来れる人物なんて限られている。
私は合鍵を預かっているし、暗証番号も教わっているから入れるけど。
彼の家族以外に思いつかない。
でも、彼の話だと……絶縁状態だったはず。
お兄さんとは会ったり会話もするみたいだけど、実家にはもう数年帰ってないって。
彼が言っていた『可愛い感じの人』というのがピタリと嵌る。
美人だけれど、メイクや顔立ちが可愛らしい感じだ。
だとすると、私は何て挨拶したらいいんだろう。
米飯の炊き上がりを知らせるメロディーが鳴った。
「後のことは私がしますので、上がって貰って大丈夫ですよ」
「はい?」
「もう殆ど終わってますよね?」
「……あ、はい」
有無を言わさぬ圧というのか。
『家政婦』だと完全に思い込まれ、リビングドアの外へと促すようにされてしまった。
「では、これを片付けたら帰ります」
手元のアイロンの電源を切り、ハンガーにYシャツをかける。
彼女はリビングソファに腰掛け、バッグからスマホを取り出し、それを操作し始めた。
そんな彼女を横目に、軽く会釈し部屋を後にした。