『絶食男子、解禁』

結局、あの電話の後に謝罪のメールも来ていたけれど。
彼に幼馴染がいたことも、その人があんなにも美人で可愛らしい人だったことも知らなかった。

自宅に勝手に上がり込める関係性。
私の知らない彼が、まだまだたくさんいることを知らされたというか、突き付けられたというか。

たった数か月身近にいたからって、彼の二十七年間を知った気でいた。

彼の色んなことを知れて、ちょっとした好奇心と幸福感のようなものを感じ始めていたけれど。
彼の傍に自分以外の女性の存在がいることで気付いてしまった。

今抱いているこの感情がどんなものか。
これは、嫉妬だ。

彼から『好きだ』と言われても、自信なんてない。
元彼と楢崎は違うと分かっているのに、それでも、また傷つくんじゃないかと不安に駆られる。

恋愛は、いいことばかりじゃない。
両想いになっても、常に不安と隣り合わせで。
時間をかけて、お互いに信頼を築き上げて深めていく関係性のもの。

私はあの時から、何一つ変わってない。
過去を受け入れただけで、楢崎に好かれるような努力を何一つしていない。
昔は彼に好かれようと何でも努力したのに。

『同期』というスタートだったからか。
心地いい関係性に、完全に胡坐を掻いてしまっていた。


一瞬でも味わったあの幸福感が体に刻まれていて、再び失うかもしれないという恐怖心を引き連れてくる。

今のこの生活でも十分満足してる。
これ以上何かを望んだら、その代償は比例して痛みを伴うと知っているから。

< 106 / 157 >

この作品をシェア

pagetop