『絶食男子、解禁』


優里奈が自宅に来たあの日以来、完全に鮎川に避けられている。
決算月ということもあるし、月末を前に経理部が忙しいというのも理解しているけれど。

経理部の他のスタッフは社食で見かけるのに、鮎川だけは顔を合わすことなく毎日が過ぎてゆく。

上司の真中さんの同行でクライアント先と顔合わせをし、帰りに夕食がてら天ぷらが旨いと評判の店に入った。

「悩み事か?」
「はい?」
「ここ最近、溜息が多いぞ」
「……」

本当にこの人は鋭すぎる。

「仕事……ではなさそうだな」
「……はい」
「即断即決が持ち味の前が悩むくらいだから、出口探しでもしてるのか?」
「……」
「彼女と喧嘩か?」
「……喧嘩ができれば、こんなに悩んでないですよ」
「原因が何なのか、分からないのか?」
「何となくは分かってるんですけど、ここ数日はメールも電話も社交辞令的な挨拶だけで。社食にも来なくなってしまって、完全に避けられてるんですよね、俺」
「……浮気したんじゃないんだろ?」
「まさかっ、しませんよ、そんなこと」
「だよな」

何年もの間、完全絶食男子だった俺を知っている真中さんだから、俺の浮気を疑っているわけではないようだ。

「何があったんだ?」
「……三年ぶりに幼馴染が帰国したんですけど、俺の家でばったり会ってしまって」
「あーそういうことか」

真中さんに先日の出来事を話した。
昔の俺ならこういう面倒くさい事は気にも留めなかっただろうけど、今の俺は諦めきれずにいる。

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