『絶食男子、解禁』

「正直、家政婦はきついな」
「……ですよね」
「フォローしたとはいえ、合鍵を入手して上がり込んだ時点でイエローカード一枚、家政婦呼ばわりで更にイエローカード一枚。この時点で退場を言い渡された状態なのに、説明すらさせて貰えない状況なうえ、自分が作った料理を見知らぬ女と楢崎で食べたと思い込んでる状況か。……詰んでるな」
「……はい」

何度考えても鮎川に非は全くなく、あの状況で出来たことなんてたかが知れてる。
兄貴には『合鍵は誰にも渡すな』と忠告入れたし、優里奈にも『二度と家に来るな』と伝えた。
けれど、だからといって何一つ解決したわけじゃない。

肝心の鮎川の心に、俺は傷をつけてしまった。

「お前はどうしたいんだ?」
「どうって……」

やっと過去を振り切ることができて、前を向いて歩き出したのに。
一緒に歩みたいと思う女性が完全に足を止めてしまった。
再び歩き出せたとしても、同じ歩幅で同じ方向に歩いてくれるとも限らない。

岐路を間違えたら取り返しがつかない。
待つことができても、もう諦めることはできないんだから。

「正直に話すしかないだろうな」
「……はい」
「その幼馴染、本当に何でもないんだ?」
「どういう意味ですか?」
「お前のこと、好きでも何でもないのか?ってこと」
「当たり前じゃないですか。元々兄貴のことが好きだったし、兄貴が結婚して諦めたはずですけど」
「それとこれとは違うだろ。兄貴は諦めたかもしれないけど、お前のことを好きじゃないという保証はない」
「……え?」
「まぁ、単なる幼馴染なら、それに越したことないけど。合鍵使ってまで上がり込む気があるという点を検証する必要はあると思うぞ」

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