『絶食男子、解禁』
*
真中さんとの食事を終えた俺は、その足で鮎川のマンションへと向かった。
言いたいことを言わずして、彼女との関係が拗れるのをこれ以上放置できなくて。
少しでも可能性があるなら、軌道修正したうえで、再び彼女と歩みたいから。
インターホンを鳴らしても応答がなくて、不在だということが分かった。
残業なのか、上司の家に寄っているのか。
居場所を聞けば済むだろう。
連絡を入れれば、絶対彼女はすぐに帰宅しようとするはず。
だから、今はただ彼女の日常に負荷をかけたくなくて。
彼女が帰って来るのをじっと待つことにした。
三十分ほど待っていると、エレベーターの方から人の話し声が聞こえてきた。
「私の元彼なんて、最っっっっ悪の自己中男でしたよ」
「え?」
「仕事を理由に別れるために、他の男にあてがうような」
「えぇっ?!」
「これ、ホントの話なんです。だから、仕事が忙しいくらいでご自分を責めたりしないで。仕事ができる男性って、素敵ですよ」
誰だ?
その男。
あっ、隣人の男か。
何度か顔を突き合わせ、軽い挨拶を交わしたことがある。
親しそうに会話しながら、買い物袋を手にしてこちらへと向かって来る。
しかも、その会話の内容に、胸の奥がずしんと沈んだ気がした。
俺だけが知っている彼女の心の傷。
何年もずっと抱えてきた、深く刻まれた苦しい想い出なのに。
俺以外にも、そんな風に笑顔を向けながらサラッと口にすることができるだなんて。
「鮎川」
「ッ?!……どうしたの?連絡貰ってたっけ?」
少し気まずそうに顔を歪めながら、俺の元へとやって来た。
「荷物、ありがとうございました」
「いいえ。では、俺はこれで」
会釈した隣人が隣りの部屋の玄関ドアの奥へと消えた。
真中さんとの食事を終えた俺は、その足で鮎川のマンションへと向かった。
言いたいことを言わずして、彼女との関係が拗れるのをこれ以上放置できなくて。
少しでも可能性があるなら、軌道修正したうえで、再び彼女と歩みたいから。
インターホンを鳴らしても応答がなくて、不在だということが分かった。
残業なのか、上司の家に寄っているのか。
居場所を聞けば済むだろう。
連絡を入れれば、絶対彼女はすぐに帰宅しようとするはず。
だから、今はただ彼女の日常に負荷をかけたくなくて。
彼女が帰って来るのをじっと待つことにした。
三十分ほど待っていると、エレベーターの方から人の話し声が聞こえてきた。
「私の元彼なんて、最っっっっ悪の自己中男でしたよ」
「え?」
「仕事を理由に別れるために、他の男にあてがうような」
「えぇっ?!」
「これ、ホントの話なんです。だから、仕事が忙しいくらいでご自分を責めたりしないで。仕事ができる男性って、素敵ですよ」
誰だ?
その男。
あっ、隣人の男か。
何度か顔を突き合わせ、軽い挨拶を交わしたことがある。
親しそうに会話しながら、買い物袋を手にしてこちらへと向かって来る。
しかも、その会話の内容に、胸の奥がずしんと沈んだ気がした。
俺だけが知っている彼女の心の傷。
何年もずっと抱えてきた、深く刻まれた苦しい想い出なのに。
俺以外にも、そんな風に笑顔を向けながらサラッと口にすることができるだなんて。
「鮎川」
「ッ?!……どうしたの?連絡貰ってたっけ?」
少し気まずそうに顔を歪めながら、俺の元へとやって来た。
「荷物、ありがとうございました」
「いいえ。では、俺はこれで」
会釈した隣人が隣りの部屋の玄関ドアの奥へと消えた。