『絶食男子、解禁』


「そう言えばね、たっくん、隣りのクラスの子に告白されたんだって」
「へぇ~」
「でね、その子に、浮気しないか聞いたみたい」
「ハハッ、辰希らしいな」

缶ビールを傾けながら食事をして、他愛ない会話が弾む。

取り皿によそる際に、自分の箸をちゃんと箸置きに置き、取り箸に持ち替える鮎川。
当たり前のことなのかもしれないが、その行動にほんの少しだけ距離感を感じる。

誰かが口にした飲み物を簡単にシェアするような女性ではない。
大皿料理だとしても、直箸で取り分けたりしない人。

だからかな。
これが、気にならなくなるような相手になりたいなと思ってしまうのは。

無意識に線を引かれているように思えてしまう。
あからさまに態度で突き放されているわけじゃないのに。
それでも、何となく目に見えない不可侵区域が存在している気がする。


二十一時半すぎ。
デザートのチーズケーキも頂き、身も心も満喫した、その時。

「楢崎、……これ」
「……え」
「被ってたらごめんね」
「……ありがとう。開けていい?」
「ん」

ラッピングされたものを差し出され、丁寧にそれを開ける。
デートと食事とケーキだけで十分すぎるのに。
プレゼントまであるだなんて。

「おっ、タイピン」
「いつもお洒落なネクタイピンつけてるから、持ってなさそうな感じのを選んだんだけど。嫌だったらネットで売っていいからね」
「は?売るわけねーじゃん!鮎川から貰えるなら、駅前で配ってるポケットティッシュでも嬉しいし」
「何、それ~」

いや、ホントのことだし。
俺のことを考えてくれたことが何よりも嬉しい。
それが必要かな?とか、あったら便利かな?とか、他愛ない日常のことでも。

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