『絶食男子、解禁』
**

保留になっていた俺らの関係性が、漸く一歩踏み出せたと思ったのに。
ずっと押さえ込んでた想いが溢れ出して、タガが外れてしまった。

『…気持ち悪い』

拒絶する鮎川に、俺は最大の過ちを犯したのだと気付いた。

六年前に元彼からの残酷すぎる仕打ちを受け、身も心もボロボロになった彼女。
見知らぬ男にあてがわれたというだけでも衝撃的なのに、その男に無理やり犯されそうになったのだから。
その時の心の傷が無くなったわけじゃないのに。

想いが通じたということと、前にキス自体はちゃんと俺に応えてくれていたという事実に慢心してしまった。

感情とムードに流され、彼女の心を蔑ろにしてしまった。
もっとゆっくりじっくりと、育んでもよかったはずなのに。

そりゃあ、俺も男だから。
好きな子が目の前にいたら、キスだってその先だってしたいと思うけれど。
でも、独りよがりにはなりたくない。

七年前の自分を重ねる。

あの時は疑いもせずに両想いだと思っていた。
だから、キスすることも体を重ねることも当たり前の流れなのだと。

けれど、彼女の行為には下心があって。
結局、俺は踏み台にされた。

別れれば、過去の恋人なんて誰も踏み台のようなものだけれど。
俺のは、それとは次元が違う。
現在進行形で、過去の自分が利用されていたのだと思い知らされるからだ。

そんな辛い記憶と現在の状況でさえ気にならなくなるほど、鮎川の存在は大きい。
身も心も全て、彼女で埋め尽くされているのだから。

< 121 / 157 >

この作品をシェア

pagetop