『絶食男子、解禁』


「鮎川と喧嘩でもした?」
「お前には話したくない」
「何だよ、それ」

鮎川に拒絶されて一カ月が経とうとしている。

WINGでは歳末セールが開催されていて、どの部署も慌ただしく年末の追い込みをしているところ。
法務部は、来季の契約更新に伴う書類の作成や社内規約の改正に伴う関連書類の処理に追われている。

珍しく社食で会った純也が、生姜焼き定食を頬張りながら、俺の顔色を窺っている。

「噂の出所を確認しに来たのか?」
「ビンゴ!……で、どうなの?お前ら、別れたの?」

頻繁に会社のロビーで待ち合わせしたり、会社近くの居酒屋『紋』で食事したりしていたから、社員の目にもアツアツのカップルだと映っていた。
それが、ここ一カ月ぱたりと止んだから、噂のネタになるのは覚悟していた。

実際、噂を耳にした真中さんからも『別れたのか?』と聞かれたくらいだ。

「鮎川に愛想尽かされたとか?」
「……それはあるかも」
「え?……マジか」

あれは完全に俺が悪い。
何度思い返しても、他にやり方があっただろうと思ってしまう。
だけど、あんなエロ可愛い顔されたら、ずっと理性を保ってるなんて無理に決まってる。

甘い香りがして来るし、ぷっくりとした唇が誘惑して来て。
黒々とした大きな瞳が潤んで煽って来るし、ここぞとばかりに破壊力抜群の胸元が自己主張して来るんだから。

「お前、直近で女抱いたのいつ?」
「っ……何、真昼間から」
「何年もヤってなかったから、あの流れでよかったのか、もうよく分かんなくて」
「いきなりぶっちゃけるなぁ」

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