『絶食男子、解禁』

「楢崎さんと、本当に別れたんですか?」

楢崎と気まずくなって少し経った頃から、社員の間で噂になっているのは知っている。

それまで仲睦まじい姿を惜しげもなく晒していたわけだから、社食で行き会っても話すらしない私たちをかっこうの餌食にしているのは明白なんだけど。

きっと、このままだったら自然消滅しそうだ。

ちゃんと説明して、彼に謝りたい。
けれど、また同じようなことが起ったらどうしよう。
再び彼を傷付けたら、もう修復不可能になってしまいそうで。

「これでも、多少なりとも経験値はありますから、何でも相談して下さいね!」
「……」
「仕事ではいつもご迷惑ばかりかけてますし、こんな時くらい頼って下さい」
「…ありがとう」
「で、楢崎さんと何があったんですか?」
「実はね……」

彼との出来事と元彼にされた仕打ちを、やんわりオブラートに包んで話す。

「なるほど…。あのイケメンアナウンサーがね~、人は見かけによらないってことですね」

原も瞳も言ってたけど、やっぱり元彼は印象がいいらしい。
まぁ、そうだよね。
職業柄、爽やかさと甘いマスクが売りだからね。


さすがに、あの日が楢崎とは初めてだとは言えなかった。
これまで半年近く付き合っていることになってるし、今までにもそういう事は何度もしてるだろうと推測した感じにも取れる。
そこはあえて触れずに。

肝心な部分をぼかして話しているから、どう答えていいのか難しい。

「エッチなんて、十回して十回満足するなんて二次元の世界ですよ。酔ってて少し雑にされることもあるし、疲れてて満足しきれずに終わることもあるし。だから、毎回完璧にできなくても普通です。気にする必要ないですよ」

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