『絶食男子、解禁』
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『鮎川から、相談したいことがあるってメールが来た。これって、峻のことじゃね?』

一月中旬のとある日。
出先から会社へと戻る途中でメールを受信した。
送り主は純也。

十二月の同期会は年末の繁忙期ということあり不開催だった。
というよりも、純也が俺たちのことを気遣って休みにしてくれたようなもの。
篠田からはしつこいくらいLINEが来るが、殆ど既読スルーしている。


『時間を置きたい』と言い出したのは俺。
だから、鮎川からの連絡を待っているのはお門違いなのだろうけど。

恋愛自体がご無沙汰すぎて、感覚が鈍っているというか。
過去のトラウマが強烈すぎて。
勇気が出ないというか、踏ん切りがつかない。

自分に自信があるわけじゃない。
これ以上鮎川を傷付けたら、俺じゃ対応しきれなくなる。
彼女を失いたくないと思えば思うほど、第一声を何て声をかけていいのか分からなくなって。
時間だけが過ぎてゆく。

鮎川は俺に幻滅しただろうか。
純也に別れ話を相談するだろうか。
もしかしたら、もう同期会に顔を出すのも嫌だと言い出すかもしれない。

考えれば考えるほど、思い当たることが多すぎて嫌になる。

『俺のことは気にせず、鮎川の相談、しっかり乗ってやって』

俺にはこれくらいしかできない。

“別れたい”と言われたら、すんなり聞き入れてやれるだろうか。
いや、無理だ。
時間をかけてでも、彼女との関係を修復したい。

あの日に戻れたらどんなにいいか。

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