『絶食男子、解禁』
(原視点)

鮎川から『今日相談したいんだけど』と連絡を貰い、会社から結構離れた駅を指定された。
十九時に待ち合わせということもあって、食事でもしながら峻のことを相談されると思っていたのに。

着いた先は大手のビジネスホテル。
地方に出張する際によく利用していることもあって、雰囲気的には慣れているけれど。
今置かれているこの状況は、それとは次元が違う。

十二階の部屋に連行された俺は、ドアの内側で大きな溜息を吐いた。

『俺のことは気にせず、鮎川の相談、しっかり乗ってやって』だなんて峻からは頼まれたけれど。
さすがに、こういう個室で相談に乗るとかありえないだろ。

「食べたいものある?適当に頼んでいい?」
「……えっ、この状況で食えるかよ」

鮎川は至っていつも通り。
ルームサービスを頼もうとメニューを見始めた。

『何年もヤってなかったから、あの流れでよかったのか、もうよく分かんなくて』
峻が言ってたことを思い出す。

もしかして、峻と来るための下見ってこと?
それならわざわざ俺を誘わなくてもよくね?
ビジネスホテルなら一人でも泊まれるし、ルームサービスだって頼めるだろ。

鮎川が何がしたいのか、全く分からない。
食事を頼み終わった鮎川は、着ているコートを脱ぎ出した。

「先にシャワー浴びる?」
「……あのさ、相談事だけならシャワー要らねーだろ」
「……」

コートをハンガーにかけた鮎川は、黙り込んでしまった。
何か思い詰めてるような表情で、ベッドに腰掛けた。

「あのね。……実は…―…」

鮎川は切羽詰まった表情で話し始めた。

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