『絶食男子、解禁』


品川駅に到着し、人波を縫うように改札口へと急ぐ。

『結局のところ、キスからちゃんと手順を追って丁寧にすれば大丈夫だから』
純也からの意外な言葉に絶句した。

純也の話によると、元彼にあてがわれた男から、キスもせずに無理やり犯されそうになったらしい。
しかも、元彼も初めの頃はキスから時間をかけてしてたのに、いつの間にかショートカットされるようになり、行為が終わる頃になるとキスし出す男だったとか。

奴の話なんてどーでもいい。
むしろ、聞きたくなかったというか。

でも、……だからだ。
あの日、俺はキスもせずに行為を進めようとしたから。
だから、過去がデジャヴのように重なったのだろう。

純也が彼女とキスした事実は受け入れ難いが、今は一分一秒でも早く会いたい。
過去の男も純也のことも、全部デリートしたくて気が狂いそうだ。



教わった部屋の前に到着した。

もうどんな事からも逃げたりしない。
鮎川ととことん話し合うなりして、前に進む!!そう覚悟を決めた。

深呼吸して、ベルを鳴らす。
ゆっくりと開かれたドアの隙間から、大好きな彼女が現れた。

「迎えに来た。……帰ろう」
「……はい」

泣いたのか。
少し目元が濡れていて、頬に涙の痕がある。

身支度を終えた彼女の手を取り、部屋を後にした。



「何も聞かないの?」
「今はいい」

純也から事の次第は聞いているから、あえて彼女の口から聞くことは何もない。
『時間を置きたい』と言い出したのは俺だし、ずっと放置してた俺にも非があるから。

過去と向き合おうとしてくれたということだけで十分。
ちゃんと俺のことを考えて、必死に頑張ったと思うから。

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