『絶食男子、解禁』


こんなにも恥ずかしいことの連続だったっけ?

一時間ほど前に、原にこれを頼んだのかと思うと眩暈がしてくる。
そもそも、元彼にだってこんなに丁寧に扱われたことない。

六年もの歳月で記憶が薄れただけとは思えない。

だって、膝の裏や脇とかありえない場所や至る所にキスの雨を降らして。
ほんの少しでも羞恥で蕩け死にそうなのに、敏感な箇所を記憶してるのか。
終わりのない甘い刺激が連続で襲ってくる。

「峻っ……もう…っ…」
「…こんなんで満足すんな」
「ッ?!」
「雑に扱われたあいつの記憶は、二度と思い出せないように俺がアプデするから」
「っっ」
「だから、今夜は泣いてもやめねーぞ」
「……んっ」

私の過去を受け入れて、そしてこの先の未来を想い、今私と過ごしていてくれる。


絡まる指先の優しさ。
触れる唇の愛おしさ。

洩れる熱い吐息。
せり上がる甘い刺激。

どれも彼が与えてくれる幸せの享受だ。


―――
―――――
―――

―――
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―――


ぼんやりと霞む視界の中で、浅い呼吸を繰り返す彼をとらえる。
苦し気な表情なのに、何故か胸の奥が満たされる。
彼にこんな顔をさせてるのは、紛れもなく私だから。

「何、その余裕げな顔。…なんか、腹立つ」
「……余裕なんてないよっ。…何度も無理だって言ってんのに、止めてくれなかったじゃないッ」
「フフッ、……“もう無理”は“もっと”とか“早く~”の意味合いだろ」
「っっ……」

ズバリ言い当てられて、言い訳すらさせて貰えない。
彼に口で勝とうとするのが、そもそも間違ってるのだろう。

長い腕にふわりと抱き締められた。
お互いの跳ねる心臓の音が心地いい。

「やっとつぐみの男になれた…」

満足そうにはにかむ彼の顔を、今夜はしっかりと心に焼きつけて。

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