『絶食男子、解禁』
「何が始まるの?」
「分かんねぇ」
打ち合わせでは無かった余興が始まるようだ。
新郎新婦による特技披露だなんて、本当に二人らしくて微笑ましい。
「うぉっ!!」
「きゃぁ~っ、すっご~いっ!!」
スポットライトの光と共に軽快なBGMに合わせ、原が披露宴会場内をタタタタッと移動したと思ったら、物凄い速さで前宙したり、バク転したりしている。
「このためにデカい披露宴会場にしたんだな」
「……そうみたいだね」
招待客は百人ほどなのに、五百人が入れるような大宴会場だからだ。
「そう言えば、中高と体操部だって聞いたことがあるかも」
「そうなの?」
「前に会社のフットサルサークルに俺と原が誘われて参加した時に、あいつバク宙してたもんな」
「へぇ~、七年付き合いがあるのに初耳だよ」
ほこりが舞わないように気遣いながら、時折、倒立したりして視線を釘付けにしてる。
クルクルッと物凄い速さで繰り出される技は、オリンピックのテレビ中継で観たことがあるようなものばかり。
「原、カッコいいね」
「だな」
およそ五分間ほどの演技が終わると、溢れんばかりの感嘆の拍手が送られた。
「続きまして、ご新婦様による特技披露です」
再び照明が暗くなり、会場の一角にスポットライトが当たる。
そこにバリスタの恰好をして現れた瞳は、笑顔でエスプレッソマシンの前に立った。
既に珈琲は淹れてあるようで、カップを手にした瞳は、フォーミングされたミルクを注ぎ始めた。
「ラテアート?」
「みたいだな」
結婚式場のスタッフが次々とエスプレッソとフォームミルクを作ってフォローしている。
瞳が披露するのは、ラテアートのようだ。