『絶食男子、解禁』
スッと立ち上がった楢崎は、足早に返却口へと向かって行った。
「絶品エビフライ食べないなんて、勿体ないよね~……って、つぐみっ、何それ!!」
「え?」
「――楢崎、やるぅ~~!!」
瞳の指差す先、自分のお皿に視線を落とした私は驚愕した。
……エビフライが若鶏の隣りに置かれているではないか。
さっき大声を出したのは、私たちの視線を逸らすためだったようだ。
「峻の奴、粋なことしてんな」
「なんだかんだ言っても、彼女には甘いんだぁ」
“彼女”だなんて、単なる逃げの口実に過ぎない。
あの場をやり過ごすための最善の方法だったはず。
こんな形で、“彼女”のメリットを享受していいのだろうか。
「半分あげるよ」
「えぇっ、いいの~?」
「幸せのお裾分け??」
「おおおおっ!彼女の余裕ってやつか~?」
「そんなんじゃないよ」
箸で半分に切り分け、瞳の丼に乗せてあげる。
「わーい、エビフライゲット~♪つぐみ、ありがと!」
「御礼は私じゃなくて、楢崎に」
あとで御礼のメールでも入れておこう。
「あっ、そう言えば、さっき女子社員にアイツ口説かれてて。『彼女できたんで、こういうのはお断りします』って言ってたぞ」
「えっ…?」
「楢崎って、物凄い無愛想だけど、そういう所はちゃんとしてんだね」
「アイツが笑顔で対応するとか、想像もできなかったわ~」
「笑顔だったの?!」
「まぁ、フェイクなんだけどさ。それでも、あの冷徹男があーいう態度取ること自体が異常っつーか。アイツも男だったんだなぁって思ってたとこ」
「それ分かる!このエビフライだってそうだよ!こんなことするとは思ってもみなかったよね。つぐみ~、愛されてるね~♪」
「……ハハハハッ」
原と瞳のお花畑の思考回路に、思わず顔が引きつってしまった。
だけど、こんな風な扱いされたら、仮の恋人だとしても悪い気はしないかな。