『絶食男子、解禁』
約束の必要性

「すっかり騙されてたよね~」
「本当ですよね」
「『私は、男は要らない』だとか『恋愛に興味ない』なんて散々言っておきながら、ちゃっかりうちらの王子様を手玉に取ってただなんてね」
「鮎川さんって、ちょーっと美人で、少~しくらい仕事ができるからって、お高くとまって」
「でもなーんか、腑に落ちないんですよね。前日の態度と真逆というか、コロッと変わったじゃないですか」
「いや絶対あれ、色仕掛けで落としたよ!あの子、胸は結構あるじゃん」
「あぁ~っ、やっぱそれかぁ~。じゃなきゃ、あの冷徹王子が靡くはずないかぁ」
「そうだよ。あの冷徹王子も男だったってこと。それなら、うちらにも望みがあるかもよ?」
「あっ、そうですよね!ここにも豊満ボディのお方がいらっしゃる!」
「……胸かぁ、じゃあ私には一生無理です~、底上げしてのBだもん…」

トイレに入っていたら、後から入って来た女子社員の会話が聞こえて来た。

楢崎が『彼女ができた』と言ったその日のうちに、瞬く間に彼女探しが始まり、翌日には私が彼女だと知れ渡ったのが原因。
というより、楢崎を狙っていた女子社員が次々と彼の元に『彼女は誰ですか?』『彼女はどんな人ですか?』と問い詰めに行ったらしく、『経理部の鮎川 つぐみと付き合ってる』と明言したらしい。

おかげで、その日から私の元にも女子社員に限らず、男子社員も押し寄せて来て。
『本当に付き合ってるの?』『いつから?』『どっちから告白したの?』などと連日拷問のような要らぬ詰問に遭っている。

そして、同時に始まったのが、暴言・罵倒・虚偽行為を始めとするいじめ行為だ。

イケメン、有能、人気者の恋人を持つと、少なからずこういった類の弊害があるのは分かっていた。
だから恋人なんて不要で、こういうトラブルも避けてたのに。

恋人になることで得られるメリットより、デメリットの方が多いと、あれだけ学習していたはずなのに……すっかり失念していた。

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