『絶食男子、解禁』
瞳はきつねうどんを食べながら、器用にメッセージを打つ。
スマホから視線を上げた瞳が、突然クイクイッと指先を折り曲げ、誰かを呼びつけている。
「ちょっと、何で逃げようとしてんのよっ!」
「はっ?お前一昨日から、すっげぇ量のメール送って来んじゃん」
「楢崎が既読スルーするからでしょ」
「だからって、俺に八つ当たりすんなよっ」
「あんたからのメールなら、返事くらいくれんじゃないの?」
「はぁ?」
瞳に呼びつけられたのは、同期の原。
渋々といった表情で、相対する席に腰を下ろした。
「ごめんね、私のせいで」
「鮎川のせいじゃないだろ。イカれたババアたちの陰湿ないじめがそもそもの元凶だろ」
「いや、違うね!つぐみの許可なく、勝手に『彼氏宣言』したあいつのせいだよ!ちゃんとフォローできるならまだしも、完全放置じゃん!これは悪質な彼氏詐欺だから!!」
「瞳、声落として…」
「あ、ごめん」
近くで昼食をとっている社員がチラチラとこちらを見ている。
「峻、今海外出張中らしい」
「は?」
「スポンサー契約する選手が海外を拠点に活動してて、現地のマネージメント契約してる会社と少しトラブってるらしくて、昨日までワシントンで対応に追われて、今日からカナダって言ってたよ。……って、時差があるからまだワシントンか?よく分かんねぇけど」
時差があるならメールを見ても、少し対応に遅れが出ても仕方ない。
とはいえ、一言くらいあっても良さそうな気がするけど。
「じゃあ、私が送った内容は把握してるってことね?」
「……あぁ」