『絶食男子、解禁』
それにしても『鮎川 つぐみ』という人物は、本当に大人しすぎる。
普通なら泣き喚いたり、精神的ショックで鬱っぽくなるとか、理不尽だと怒り狂ったりするものなのに。
篠田と純也のメールには『時間が解決するから』『やり返すと余計にエスカレートするから』と常に冷静さを保っている、と。
仕事に支障をきたすような状態なのに、俺に嫌味の一つ言って来ない。
それが返って気になる。
元々こういう性格なのか。
会社という場所だから、必死に我慢しているのか。
それとも、憤る感情が欠如しているのか。
弁護士という職業柄、ついつい第三者の視点に立って考えてしまう。
同期といえど、今まで殆ど個人的な付き合いはしていないから、彼女がどんな思考の持ち主なのかも知らない。
同期会で見る彼女は、物静かで気が利く、少し古風な女性というイメージ。
けれど本当の彼女は、違うような気がする。
篠田の話だと、一人で海外旅行にも行くらしいし、痴漢対策にキックボクシングを習っていたとか。
それに、執拗ないじめ行為にも動じない所をみると、過去に同じような境遇を経験しているのか。
もしくは、気持ちの切り替えが早いタイプなのか。
どちらにしても、感情を表に出すタイプではなさそうだ。
篠田からのメール攻撃ですっかり目が覚めてしまった俺は、これまで来ていたメールの返信を簡潔に纏めて返す。
すると、すかさず『遅ーい!やっと返したな!』と返って来た。
社食でイラついてる姿が目に浮かぶ。
『あんまイライラすると、シワが増えるぞ』
夜中に起こされた借りをきっちりと返して…。