『絶食男子、解禁』


「えーっ、もう四科目も取得してるんですか?!」
「……うん」
「ファイナンシャル・プランニング技能(FP技能検定)の二級、電子会計実務(e-Tax)の一級をお持ちだと課長から聞きましたけど、他にも沢山資格をお持ちなんですよね?」
国際会計(BATIC)経理・財務(FASS)スキルも持ってるかな」
「すごーい!!毎日の仕事だけでいっぱいいっぱいの私には一つ取るのも難しそうなのに~っ」
「他にこれと言って趣味があるわけじゃないし、一人暮らしで時間も融通利くから」
「それにしたって……、脳内、どんなつくりになってるんですか」

部長と課長が会議で不在なため、後輩の和田(わだ) 香苗(かなえ)(二十五歳)と休憩ブースで珈琲を口にする。

税理士試験だけでなく、これまで色々な資格に挑戦して来た。

共働きの家庭で育ったつぐみは、決して恵まれた環境ではなかった。
だからこそ、知識と経験は決して裏切らないと知っている。

将来結婚するという夢を描いていない私は、己の力で生きていくと決めている。
一生涯仕事をし続けること前提に、より豊かな生活を送るためのステップだと考えているのだ。

「あら、経理部さんも休憩かしら?」

出たよ、日課の暴言スパーリング。
総務部の木根がいつもの後輩二人を連れ、休憩ブースに現れた。

四階フロアは経理部、総務部、業務部、製造部があり、休憩ブースの奥に喫煙室と談話室のような個室まである。
大企業だから仕方ないが、常に人の目に晒されているという状況。

見て見ぬふりをする社員が多い中、噂に敏感な社員たちの視線が容赦なく注がれる。

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