『絶食男子、解禁』
「和田さん、そろそろ戻ろうか」
「あ、はい」
席を立ち、部署へと戻ろうとした、その時。
「法務部の彼と付き合ってるのに、製造部の小野課長と不倫してるって本当?」
「……はい?」
「とぼけても無駄よ?昨日も今朝も、同じ電車で出勤して来たじゃない。彼氏が出張中によくやるわね」
木根さんの言葉が理解できない。
私が不倫?
相手は製造部の小野課長って…。
確かに昨日も今日も小野課長と同じ電車で出勤したが、それは単に彼が引っ越しした物件が同じ駅を使う生活圏内というだけ。
駅のホームでたまたま行き会い、出勤して来ただけなのだ。
「何を根拠に仰ってるのか分かりませんが、あらぬ事を言われる筋合いはありませんし、不愉快です」
事実は違う。
例え想像であったとしても、他の人がいる場所で口にする話題じゃない。
こういう陰湿な態度は、放っておくとどんどんエスカレートする。
かと言って、言われる度に言い返していても相手の思うつぼだ。
「業務ミスをクレームするならまだしも、プライベートなことを他の人がいる場所で発言するのは止めて下さい」
「あらあら、図星なんじゃないかしら?今までずっとだんまりだったのに、小野課長の話題になった途端に反応を示したわよ」
腰巾着の二人にアイコンタクトを取る木根。
周りにいる他部署のスタッフの視線が優越感に浸らせているのか、気をよくして笑顔を振りまき始めた。
『えっ、ホントなの?』『あんなにイケメンの彼氏がいるのに』『男なら誰でもいいんじゃない?』などとひそひそ声が漏れて来る。
「そう言えば、資材部の樋口さんとも仲良かったわよね。彼もセフレなの~?」
「っ……」
「楢崎くんが知ったら、どう思うかしら?」
資材部の樋口さんという名前に思わず反応してしまった、その時。