『絶食男子、解禁』
「俺がどうしたって?」
突然現れた楢崎は、ブースにいる人々の視線を一瞬で掻き集めた。
「楢崎くんっ…」
「……俺と面識がありましたっけ?」
『楢崎くん』と馴れ馴れしく呼ばれたことに少し苛ついているっぽい。
カツカツと靴音を響かせながら、私の元へと歩み寄った。
法務部があるのは十三階。
四階に何の用があるのだろう?
不思議に思いつつ、真横まで歩み寄った彼を見上げる。
「手、大丈夫か?」
「え?」
「火傷したって」
「……あ、…うん。直ぐに冷やしたから、そんな酷くはないよ」
「けど、火傷は火傷だろ」
「……っ」
一週間ぶりくらいに見た彼は、珍しく感情を露わにしてる。
普段は殆ど表情を変えることなく、何でも事務的にこなすのに。
瞳と原からのメールで事の次第は伝わっているみたい。
もしかして、わざわざ様子を見に来てくれたのかな。
「あ、あの…」
木根さんがばつが悪そうに視線を泳がし始めた。
その取り巻き二人も、明らかに動揺している様子。
楢崎は手にしているタブレットPCをタップし画像を表示させ、ゆっくりとそれを見えるようにしながらフリックする。
「公然の場において、事実の摘示により名誉を毀損された場合、刑法二百三十条の名誉棄損罪が適用されますよ。事実の摘示とは、必ずしも事実とは限らないと法律で定められています。また、暴言や虚偽の発言により侮辱された場合は刑法二百三十一条の侮辱罪に該当しますね」
そう口にした彼は、つい二分ほど前までの私たちの会話を撮影していたようで、タブレットでその動画を再生した。