『絶食男子、解禁』
帰国直後に色々と証拠集めをしてくれたようだ。
休憩ブースにいるスタッフたちの視線が否応なしに向けられる。
少し前まで汚物を見るかのような視線だったのに、楢崎のジャッジに一瞬で空気が変わった。
『さすが、楢崎さん』『やっぱりカッコいいね』『鮎川さんが羨ましい』などと、楢崎を称賛する声が続々と。
「先輩、よかったですね。これで仕事にも集中できますよ」
「……ん」
あまり口には出さなかったけれど、和田さんは私を信じてくれていた人の一人。
課長や部長も、経理部のみんなは私を信じてくれていた。
気を遣わせていて申し訳なかったけれど、それももう終わりのようだ。
「あっ、言い忘れた」
その場の視線に耐え切れず、そそくさと部署に戻ろうとする木根さんたちに再び楢崎が声をかけた。
「うちの会社、採用された時に結ぶ雇用契約があるの、覚えてますか?その雇用契約の第四十六条 第三項、『労働者の責に帰すべき事由によって解雇するとき』というのがあり、今回の件はそちらに該当しますので」
「へ…?」
「帰国後間もないのでまだ手続きしてませんが、今後、人事部より何らかの通達があるとお見知りおきを。それともう一つ。彼女が俺に言い寄ったんじゃなくて、俺が五年かけて口説き落としたんで。俺のこの五年を踏みにじるような真似は止めて貰えますか?例え相手が女性であろうと、俺は容赦しませんよ」
「なっ…」
スカッと断罪したような表情を浮かべる楢崎。
にこりとほくそ笑んだ横顔が、悪魔の冷笑に見えた。