『絶食男子、解禁』
利害の一致
蒼天に葉桜が映える四月下旬。
入社六年目を迎えた鮎川 つぐみは、一時間の残業をした後、同期会が行われる居酒屋『紋』へと向かう。
つぐみは大手スポーツメーカー『WING』の経理部に勤務していて、月末月初はいつも以上に業務に追われる。
二カ月に一度開かれる同期会は、余程のことがない限り、ほぼ強制参加のようなもので。
欠席すると、次回の幹事になるという恐ろしいルールがある。
けれど、気心知れた同期入社のメンバーだから、気兼ねなく会話出来て結構リフレッシュにもなっているのだ。
「あっ…」
「鮎川も今来たところ?」
「うん。月末だから、ちょっと忙しくて」
「だよな。俺もクライアントと打ち合わせして来たとこ」
居酒屋『紋』の入口で、同期の楢崎とばったり鉢合わせ。
楢崎は、同期の中では異色の社員。
法務部所属の歴とした弁護士だ。
司法試験に合格し、司法修習を経て、弁護士事務所に就職するのが一般的な中。
彼は『サラリーマン』の道を選んだ。
とはいえ、私のような一般社員と違い、年俸制だと聞いているが。
「遅くなった」
襖を開けたと同時に発せられた楢崎の一言で、視線が注がれる。
「遅ぇーよ、絶食コンビ」
「つぐみ、遅ーい」
「ごめん、これでも早くに切り上げて来たんだから」
社内で親友とも言える篠田 瞳の横に腰を下ろす。
楢崎は相対する席に腰を下ろした。
「よーし、乾杯すんぞ~」
ムードメーカーの原 純也がビールの入ったジョッキを持ち上げた。