『絶食男子、解禁』
特権の行使
六月中旬。
サマーモデルの新商品がテレビや雑誌などに取り上げられ、様々な商品の欠品が相次ぐ中。
四半期決算月ということもあって、まだ月半ばだというのに経理部は既にピリピリとした空気が漂う。
資材部や営業部、製造部や企画部の社員は、取り扱い競技の種類に比例してスタッフの人数も多いが、経理部は少数精鋭。
毎月各部署からの膨大な書類や伝票を処理していて、機械化が進んでいるとはいえ、さすがに激務だ。
部長が毎月のようにスタッフの増員を掛け合っているらしいが、人員が増えるのはいつになることやら。
「鮎川、頼んでおいた有価証券の報告書はどこだったっけ?」
「パソコンの左側のブルーのファイルです」
「鮎ちゃん、役員会議資料は出来てる?」
「今朝、机の上に置いておきましたけど」
「あれ、そうだっけ?……あっ、あった!ごめんね~、予算報告のファイルと一緒になってた」
「先輩、お忙しいところすみません。買掛金一覧のデータをご確認頂けますか?」
「あ、はーい」
下山部長、前島課長、和田さんから次々と声がかかる。
派遣社員の人達は黙々と伝票処理を行っていて、経理部全体が戦場と化してる雰囲気だ。
本来ならば月半ばは連休を取って過ごせるはずだが、今月はそれも返上だ。
「連休は暫くお預けだが、できるだけノー残業で頑張ろう!」
「部長、あとでご馳走お願いしますよ~?」
「あぁ、分かってるよ」
前島課長がすかさず飴を要求する。
これもいつものことだ。
「鮎ちゃん、この間オープンした串揚げ屋さん、何て言ったっけ?」
「轟、だったかな?」
「そこ、予約入られるか確認しといてくれる?いいですよね?部長」
「ハハッ、相変わらず強請り上手だな。鮎川来月頭に予定組んでくれ」
「はい、分かりました」