『絶食男子、解禁』

十八時半を回り、部長の掛け声で締め作業が行われている。

二週間ほど前に制裁が下ったことにより、誹謗中傷や悪質ないじめ行為はぴたりと止んだ。
というよりもあの一件以来、楢崎の社内での人気が爆上がりした。
それまでもイケメンでモテていた彼だが、冷徹王子と言われるほど性格に難アリな人物であったのに、今は『五年間の片想いを実らせた一途な王子』という勲章まで獲得したようだ。

おかげで、女子社員から羨望の眼差しを向けられることはあるものの、比較的に友好的な雰囲気の中、仕事に集中できるようになった。

『もうすぐ終わるよ』
『俺も上がるから、ロビーで待ってて』

あの日以来、頻繁に連絡を取り合う仲になった。
彼の仕事や私の習い事など、特別な用事がない限り、こうして待ち合わせして一緒に帰ったり、夕ご飯を一緒に食べたりしている。

仕事を終わらせ、一階のロビー脇のソファに腰掛ける。
退社時間ということもあり、帰宅する大勢の社員を眺めていると。

「ごめん、遅くなった」
「私もさっき来たとこ」

横を通り過ぎる社員の視線がチラチラと向けられる。
けれど、これらももう慣れた。
『噂のカップルだ』『いいよね~相思相愛で』『楢崎さん、今日もカッコいい』などと耳を澄まさなくても聴こえて来るからだ。

「メシどうする?」
「ラーメン以外なら何でも」
「昼、ラーメンだったの?」
「うん、部長に連れられて区役所前のラーメン屋さんに」
「あー、あそこ旨いよな」

自然に横を歩く楢崎。
手を繋いだり、腕を組んだりはしないけれど、『同期』とは違う空気を纏う。
傍から見たら完全に『彼氏』に見えるよね、きっと。
けれど、何がそう思わせるのだろう?

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