『絶食男子、解禁』

「ん?……どうした?」
「え、あっ、ううん、何でもない」

彼をじっと見つめていたから、不思議に思われたようだ。
私たちの関係って、やっぱり『恋人』なのだろうか?

手を繋いだり、ハグしたり、キスしたり、愛を囁き合ったりするような甘い雰囲気は微塵もないけれど、一緒に帰ったり食事をしたり、時には一緒に買い物をしたりする。

個人的な解釈で言ったら、『恋人』ではなく『親しい友人』の域のような気がして。
別にそれが嫌だというわけじゃない。
むしろ、心地いいというか。
気を遣うことなく食事もできるし、距離感が程よい。

「じゃあさ、焼き鳥で一杯どう?」
「いいね~」
「久しぶりに手羽先餃子食べたくて」

銀座線で外苑前駅まで行き、そこから徒歩数分。
社屋を出てすぐにネットで予約したため、すぐに席に着くことができた。

生中で乾杯し、楢崎ご所望の手羽先餃子を頬張る。

「やっぱここの手羽先旨いな」
「よく来るの?」
「よくってほどじゃないけど、法務部の先輩弁護士とたま~に」
「そうなんだぁ」

弁護士という職業柄、普段は仕事の話を殆どしない彼。
丸五年同期として知り合いでも、同僚の話を聞いたのは初めてだった。

「休みの日は何してんの?」
「私?……スキルアップ的な勉強とか習い事とか…?」
「マジで?」
「……うん」
「真面目ちゃんだとは思ってたけど、天然ものの真面目ちゃんなんだぁ」
「天然ものって…」
「いや、悪い意味でじゃなくて、すげーなって感心してんだよ」

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