『絶食男子、解禁』
同期会でも何となく話したことがあったが、こんな風に直接話題に触れたことはなかった。
「最近は何の勉強してんの?」
「……法人税法?」
「え、何でハテナなの?」
プッと吹き出した彼は、ジョッキに口を付けた。
「税理士の資格を取るために、入社した翌年から、毎年一科目ずつ受験してて、今年最後の五科目めにトライ予定なの。今年受かれば晴れて税理士。他の資格の受験日の兼ね合いもあるから、あまり余裕はないんだけどね」
「へぇ~、さすが電卓の女王」
「え?」
「え、知らないの?鮎川のあだ名みたいなもんだと思うけど、鬼速で電卓打つ経理の子ってすげぇ有名だけど」
「なにそれ?!」
知らなかった、そんな風に呼ばれているだなんて。
確かに電卓を打つのは得意だけど。
高校入学を機に電算部に入部し、七級から始まる電卓検定(電卓計算能力検定)を毎年受け続けている。
七級から一級まで上がり、その上の段位である初段から更に上がって、去年十段を取得した。
その上は名人・範士・教士・正速士・速士・正士……上には上がある。
初段の正解率が四十%に対し、十段では八十八%以上をクリアしなければ合格しないという難しさ。
高校生の頃は、毎日電卓を打っている夢を見ていたほど。
「要するに、ストイックな性格なんだな」
「……そうかも」
「友達と遊びに行ったりしないのか?」
「しなくもないけど…。最近は時間があると、前島課長のお宅にお邪魔してるかな」
「前島課長って、経理部の?」
「うん。五歳の男の子がいるんだけど、課長シングルマザーだから、父親代わりにたっくんの遊び相手になってる」
「たっくん?」
「あっ、…辰希くんっていうの、課長のお子さん」
「そうなんだ」
「楢崎は?普段何してるの?」
「俺?」