『絶食男子、解禁』
会社帰りに鮎川と一緒に夕食をとる。
行きつけの店でビール片手に手羽先餃子をつまんで。
鮎川はあれが食べたいこれが食べたいと、女特有の我が儘な強請り行為を一切しない。
消去法で、これは避けて貰えれば…という、さっぱりとした性格。
好き嫌いもなさそうで、どこへ連れて行っても美味しそうに食べてくれる。
「休みの日はジムに行ったり、読書したり、特別変わったことはしてないと思うけど」
「へぇ~、何だかむず痒いね」
「は?……何が?」
「普段プライベートなことを話したりしないから、ちょっと不思議な感覚っていうの?」
「それ言うなら、鮎川もだろ。同期会の時はいつもあの二人がマシンガントーク繰り広げてて、俺らはもっぱら聞き役じゃん」
「まぁね」
「あの二人は社内通ってのもあるから、仲良くしてて損は無いしさ」
「そんな風に思ってたの?」
「別にそれだけってわけでもないけど。職業柄、職場では一応一線引いてるってのもあるし、あんま親しくなりすぎるのもどうかと思って」
「……そうだよね」
「弁護士だからって、個人的な相談事とか持ち掛けられても、無報酬でとかやってたらキリないだろ」
「…うん」
やはり、弁護士には弁護士なりの悩みがあるらしい。
弁護士に相談する内容なんて、離婚だとか遺産だとか、揉めてる前提のイメージがある。
そういう大変な相談事を、ボランティアでするほど暇じゃないと思うし。
個人的な相談事を受けるなら、法律事務所に勤めてるだろう。
「うちの法務部でも、裁判とかあるの?」
「無きにしも非ず、かな」
「そうなんだね」