『絶食男子、解禁』
六月下旬のとある朝。
出勤支度を終え、家を出ようとした、その時。
珍しく朝一で楢崎からメールを受信した。
『数日、連絡できないと思うから』
絵文字もスタンプもない簡素なメッセージ。
朝の忙しい時間帯だからなのか、いつも以上にさっぱりとした文字に、『お仕事頑張ってね』とだけ返しておく。
けれど、たった数十秒ほど前に送られて来たはずなのに、既読にもならず、もちろん返信もない。
その日は連絡通りにメールも電話もなかった。
別に会話したいとかじゃないけれど、いつになく素っ気ない態度が少しだけ気になってしまった。
翌日の昼休み。
社食の混雑している時間帯を避け、後輩の和田さんと社食に行くと。
「鮎川っ」
返却カウンターの前から駆けて来る人物が。
「どうしたの?」
「今、ちょっといい?」
「……ん、いいけど。和田さん、ごめん先に座ってて」
「はい、分かりました。席、取っておきますね」
同期の原に呼ばれ、社食の一角へと。
「今夜、時間ある?」
「今夜?……うん、あるにはあるけど」
「じゃあさ、峻の見舞いに行ってくんねぇ?」
「え?……楢崎、具合が悪いの?」
「あぁ、風邪引いて寝込んでるみたい」
「……え」
昨日の朝のメールはそういう意味合いっだったんだ。
だから、今に至るまで既読になってないのか。
「そんなに重症なの?」
「なんか、一昨日岡山に仕事で行ったらしいんだけど、急な雨に降られたらしくて。今時期、新幹線の中、めちゃくちゃ冷房効いてんじゃん。それで風邪引いたらしい」
「……そうなんだ」
「峻の家、場所分かる?」
「……ううん、まだ一度も行ったことないから分からない」
「じゃあ、メールで住所送るな」
「うん、ありがとう」
「あいつ、梅干し苦手だから、梅粥は避けてあげて」
「……分かった」
「じゃあ、頼むな」