『絶食男子、解禁』
ピンポーン。
寝室のベッドの上で死んだように横たわっていると、微かに聞こえて来るチャイムの音。
無意識に瞼が開いたが、体が怠くて再び閉じようとした、その時。
ピンポーン。
再びチャイムの音が耳に届いた。
誰だよ。
ってか、今何時?
気怠い体を必死に起こし、スマホで時間を確認。
十九時三十五分。
もう夜だ。
あっという間にまた一日が終わる。
一昨日出張で岡山入りし、クライアントと契約更新に関する打ち合わせをした。
海外を拠点としている選手で、たまたまご実家のある岡山に用があって帰国したこともあり、急遽岡山へと飛んだのだ。
その帰りにゲリラ豪雨に遭い、びしょ濡れのまま最終の新幹線で帰宅した。
おかげでこの通り、数年ぶりに風邪を引き、ダウン中。
「…はい」
ふらふらとする足下でインターホンの通話ボタンを押す。
「具合悪いところ、ごめんね。鮎川なんだけど」
「え?」
「原に教わって、必要なもの買って来たの。直ぐ帰るから開けてくれるかな」
「……あ、ん」
玄関ドアの開錠ボタンを押す。
インターホンと玄関がセキュリティ管理されているのだ。
よろよろと玄関へと向かっていると、ガチャッと玄関ドアが閉まる音がした。
「お邪魔します。……ちょっと、大丈夫?」
駆け寄って来た鮎川。
心配そうにふらつく俺を支えながら、リビングへと歩を進める。
「寝室は?」
「……あっち」
リビングの奥にある扉を指差す。
寝室のベッドに辿り着くと、ひんやりとした手が額に添えられた。
「結構、熱あるね」
ベッドに横たわる俺にそっと掛け布団を掛けてくれた。
「とりあえず、これを貼っておいて……キッチン借りるね」
額に冷却シートが貼られ、彼女の気配が消えた。