『絶食男子、解禁』
昼休みに同期の原から『楢崎を見舞って欲しい』と頼まれ、一旦自宅に帰宅し、必要なものを素早く纏め、スーパーマーケット経由で彼の家へと。
既に丸二日会社を休んでる彼は、思ってた以上に具合が悪そうだ。
足取りがおぼつかず、焦点も定まってなさそうな感じ。
体温も高く、かなり衰弱している様子。
原から一人暮らしだとは聞いていたが、ご家族は近くに住んでないのだろうか。
室内の家具や雑貨類を見ても、女性が出入りしている様子は窺えない。
本当にこんなイケメンが、完全シングル状態なの?
一応、表向きは『彼女』ということになっているけれど。
今回のことがなければ、自宅の場所さえ知らなかった。
男性の一人暮らし。
炊飯器があるのか、調理器具が揃っているのか、調味料があるのか。
完全に予測不能だった私は、とりあえず消化が良さそうで時短調理できるように、チルドのゆでうどんを購入。
買って来た物を冷蔵庫や冷凍庫にしまい、小鍋でうどんを煮始める。
自炊は何となくやっている感じはある。
鍋やフライパンもあるし、調味料もある程度揃っていた。
とはいえ、グリルまわりは殆ど汚れはなく、生活感もないところを見ると、簡単に調理できるものしか作ってなさそうだ。
あんかけ豆腐うどん(ほうれん草と卵入り)を作り、トレイに薬とお水も乗せて部屋に運ぶ。
コンコンコンッ。
部屋の扉をノックしたが、返事はない。
静かにドアを開けると、辛そうに寝ている。
そぉーっと首筋に手を当てて体温を確かめる。
かなり熱を持っていて、呼吸も苦しそうだ。
「楢崎、……楢崎、起きれる?」
トントンと優しく肩を叩いて起こす。
ゆっくり瞼を押し上げた彼は、私の姿を見つけ、一瞬驚いた表情を浮かべた。
熱で魘され、玄関を開けたことすら忘れているのかもしれない。