『絶食男子、解禁』

「ごめんね、寝ているところを起こして。うどんを作ったの。これ食べて、薬飲んでからまた休んで?……起きれる?」

彼の視界に入るように顔を近づけ、ゆっくりと話す。
小さく頷いた彼は、怠い体をゆっくりと起こした。

「……旨そ」
「熱いかもしれないから、ゆっくり食べて」

枕元に置かれていた体温計。
それを手にして、彼の耳にそっと当てる。

ピピッ、ピピッ。
三十八度六分。
丸二日寝て、この体温。
これは辛いに決まってる。

「食べたら着替える?濡れタオル持って来るね」

勝手に家の中を漁り、浴室に干されていた部屋着一式を取り込み、洗面室からタオルを拝借した。
キッチンでタオルを濡らし、それをレンチンする。

寝室に戻ると、ほぼ食べ終えていた。

「自分で体拭ける?」
「……ん」

食べ終わった食器を下げ、ペットボトルの蓋を開けていると。
Tシャツを脱ぎ、上半身裸になった彼が、しんどそうに腕を拭き始めた。

「貸して、……拭いてあげるよ」
「……いいよ」
「もたもたしてると余計熱が上がるよ?」

辛そうな彼が見ていられなかっただけ。
体裁のいい理由をこじつけ、彼からタオルを取り上げた。

手早く体を清拭し、Tシャツを頭に被せた。
普段は弱みなど一切見せない彼が、意外にも子供みたいに可愛く従順だ。

ペットボトルの水と薬を手渡し、飲み込むのを見届ける。
よし、ちゃんと飲んだね。

「キッチンで片付けしてるから、用があったらスマホ鳴らして?」
「……ん」
「他の着替え、ここに置いておくから、着替えれそうなら着替えて」
「…ん」

長い睫毛がゆっくりと下がり、再び横になった彼。
消え入るような声で『ありがと』と口にした。

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