『絶食男子、解禁』


午後四時過ぎ。

「客が切れたら、休憩しとけよ」
「……ん」

持ち場のスタッフは派遣も入れ、合計九名。
『WING』の社員は原と私の二人。
原は営業というのもあってイベント慣れしていて、心強い。

「はい、原です、お疲れ様です。……はい、……はい、分かりました」

通話を切った原は、スマホのカメラ機能で前髪をチェックし始めた。

「何か、あったの?」
「STV(スカイテレビ)の取材クルーが来ることになった」
「え?」
「夕方のエンタメニュースのトップでフェス企画があるんだけど、横浜スタジアムと講道館と新フェス会場のアクアティクスは聞いてたんだけど、なんかここにも来るらしい」
「へぇ~」
「この会場限定のグッズもあるしさ、ここは毎年取材クルー来るんだよね~」
「あ~っ、だから今日は前髪上げてるんだね」
「うっ……そこは見逃して」

普段は軽く流す感じにアレンジされてる髪が、今日はちょっとお洒落にセットされてる。
目立ちたがり屋の原の考えそうなことだよ。

「生放送だから、めっちゃ緊張する」
「えっ、生放送なの?」
「当たり前じゃん。STVの夕方のエンタメコーナーって言ったら、超人気コーナーだもん」
「へぇ~」
「鮎川、テレビ観ねーの?」
「……観ないかな」
「なーんか、意外。お前、時事とか詳しそうなのに」
「取材クルー来たら、席外すね」
「えー、何で?別にいても平気だぞ?」
「私、あまりそういうの得意じゃないし」
「まぁ、無理にとは言わねーけど」
「じゃあ、そういうことだから」

人気商品を補充し、かき氷を担当する派遣スタッフをフォローし始めた。

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