『絶食男子、解禁』


「STVの西野(にしの) (とおる)です。今日は宜しくお願いします」
「WING 営業部の原と申します。猛暑の中、有難うございます」

原がSTVのスタッフと名刺交換をしている。
……今、『西野 透』って、聞こえなかった?

商品にラベラーで値札付けていた私は、声のする方に視線を向けた、次の瞬間。

「……つぐみ?」
「ッ?!!」

Yシャツ姿の彼とバチっと視線が絡まった。

「えっ、……鮎川と知り合いですか?」

原の『鮎川』という言葉に反応した彼。
驚いた表情はほんの一瞬で、直ぐに営業スマイルに切り替えた。

西野 透、二十八歳。
STVの人気アナウンサーであり、彼氏にしたいアナウンサー、結婚したいアナウンサー、好きなアナウンサーで三年連続一位になるほど、注目のイケメンアナウンサーだ。

「大学の後輩なんですよ」
「……あぁ、T大でしたよね」
「はい。サークルでも一緒だったので、知り合いといえば、そうなのかもしれません。ハハハッ」

似非スマイルは健在のようだ。
多くの女性を誑かし、あの甘いマスクに騙され、何人もの女の子が痛い目を見て来た。
……そして、私もその中の一人。

思い出したくもない、あんな記憶。

「つぐみ、WINGに就職したんだな」
「……仕事中なので、下の名前で呼ぶの、止めて貰えますか?」
「あ、……悪い、ごめんな」

視線を合わすことなく、ガチャンガチャンとラベラーで値札付けを再開する。

「すみません。それでは、打ち合わせ宜しいでしょうか?」
「はいっ!お願いします」

テレビ取材が入ると聞いた時から嫌な予感がしていた。
人気アナウンサーだということは知っていたが、まさか、このタイミングで居合わせるだなんて。
どれほどの確率なのか……。

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