『絶食男子、解禁』
「鮎川。西野さんと知り合いだったんだな」
「……ん」
「先に言っとけばよかったな」
「……ううん、私なら平気だよ」
取材クルーがコロシアムの中に撮影しに行った隙に原が声をかけて来た。
「仲良くなかったんだ?」
「……どうしてそう思うの?」
「なんか、鮎川の顔がずっと引き攣ってる」
原は女性の顔をよく見てるよね。
瞳が失恋したり、好きな人ができた時も、一番最初に気付くのは原だ。
営業職だからなのか、相手の気持ちをよく汲み取ろうとしてくれる。
「……元彼だよ」
「えっ?」
「私の黒歴史」
「……っ」
「誰にも言わないでね」
「……ん」
彼と付き合ったのは一年ちょっと。
元々彼女を切らさないようなモテメンだったから、付き合うとは思ってもいなかった。
恋愛にも興味がなくて、友達すらあまりいなかった私。
唯一仲の良かった友達に誘われ、入ったサークルで彼に会った。
彼は男女問わず人気者で、見た目もカッコいいから他の大学の女子にも人気で。
四年連続ミスターコンで一位になるくらい、有名な人だった。
高校時代から雑誌のモデルをしていて、大学に入ってからは更に人気が出たようで。
いつも取り巻きみたいに可愛い女の子を何人も連れていた。
そんな彼が彼女と別れ、たまたまそのタイミングであったサークルのキャンプで、私に『俺の彼女にならない?』と声をかけて来たのだ。
罰ゲームか何か。
揶揄いなのか、悪戯なのか。
彼の意図は全く分からなかったが、太陽が燦燦と降り注いでいるような存在の彼の彼女にたった一時間でもなれるなら、なってみたいと思ってしまったんだ。