『絶食男子、解禁』
「今日もかわいいね」
女性慣れしている彼は終始優しかった。
レディーファーストで、気遣いが凄くて。
けれど、それがお世辞だということも当然分かっていた。
可愛くなりたい、綺麗になりたいだなんて、それまで思ったこともなかったから。
服も髪もメイクも地味で、モテる要素なんて微塵もなくて。
彼の隣りにいること自体が場違いだと思わせられる毎日で。
だけど、彼はそんな私にも優しかった。
だから、彼のために可愛く、綺麗になろうと沢山努力した。
分厚いレンズの眼鏡はコンタクトに変え。
パンツスタイルだった服も、流行りを取り入れたガーリー系やフェミニン系にしてみたり。
明るめにヘアカラーしたり、スタイリストさんお薦めのヘアにセットしてみたり。
特にメイクは毎日動画を観て練習して、日々の肌のお手入れも念入りにした。
付き合い始めは『不釣り合い』となじられた私だったが、少しずつ変化していく私に、周りの目も少しずつ変わっていき。
付き合い始めて三か月が経った頃には、それまで声すらかけて来なかった男子から、毎日のように声がかかるようになった。
「それ以上、かわいくなるなよ」
彼から初めて嫉妬とも思える言葉を聞いた。
それが物凄く嬉しくて。
頑張った甲斐があったなぁとつくづく思えたんだ。
勉強しか取り柄がなかった私が、初めて付き合った人。
『好き』という気持ちも、『嫉妬』という感情も初めて知ることができた、そんな彼。
彼にしたら、女の子なんてよりどりみどりで。
毎日とっかえひっかえしてても全然違和感なさそうなのに。
恋愛に疎くて、可愛げもない私になんで『俺の彼女にならない?』なんて言ったのよ。
初めから、付き合う気なんて微塵もなかったのに。