『絶食男子、解禁』


「今日はありがとうございました」
「いえいえ、弊社としても、とても有難いです!」

夕方のエンタメコーナーの放送も無事に終わり、取材クルーが撤収してゆく。
原と挨拶をかわした彼が、私の元へとやって来た。

「仕事、何時まで?」

気安く話しかけて来ないで。
あんな仕打ちをしておきながら、よく話しかけられるなぁ。
どういう神経をしてるんだろう。

「俺、今日の仕事はこれで終わりだから、飯でもどう?」
「お断りします」
「食事するくらいいいだろ」
「仕事中です。迷惑なので、帰って下さい」
「相変わらずだな」
「貴方の方こそ、何にも変わってないですね」
「フフッ。……これ、俺の連絡先」
「要りません」
「そう言わずに」
「っっ……」

他のスタッフがいる中、無理やり名刺を握らされた。

「彼氏がいるんです」
「だから?」
「彼氏がいるのに、他の男性とご飯になんて行けません」
「じゃあ、彼氏も呼べばいいよ」
「は?」
「俺は構わないけど」
「……」

そうだった。
この人はこういう人だった。
我が道を行っているというか。
世界が自分中心に回っていると思っているというか。

「二度と会いたくないので、連絡はしません。これも捨てますので」
「つぐみは俺に会いたくなるよ、絶対」

にこりと微笑む彼。
周りのお客さんや女性スタッフが色めき立っている。

何を根拠に言うのだろう。
彼のこういう自信に満ち溢れた態度。
自分には無い世界だったから憧れのような感情を当時は抱いていたけれど。
今は違う。
こういう手にはもう乗らないんだから。

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