『絶食男子、解禁』


十五時過ぎに原からメールを受け取った。

『イベ会場に鮎川の元彼現る!』
『相手は誰だと思う?』

突然の予期せぬメールに、思わずパソコンを入力する手が止まった。

“男は要らない” “恋愛に興味がない”とは言っていたが、恋愛経験がないと言っていたわけじゃない。
だから、過去に恋人の一人や二人いてもおかしくないんだけど。

何だろう。
彼女が恋しているイメージが湧かない。
美人だしスタイルもいいから、男が放っておかないだろうけど。

『鮎川に黙っとく約束したから、教えてあげなーい』

はぁ?
じゃあ、何でいちいちメール寄こしたんだよ、腹立つな。

元彼の名前言われたって、知るかよ。
って、俺の知ってる奴ってことか?
……だよな。
じゃなきゃ、あーいう脈絡にはならない。

会社の人間?
それとも、契約している選手?
同期会をよく開いている『紋』のスタッフとか??

中途半端な情報に踊らされ、気が散漫になる。
元彼が誰か、分かった所で何かが起こるわけでもないし、まぁ、いいか。



十八時過ぎ。
柔道の国際大会における提供内容の契約変更に伴う書類を作成していると、メールの着信音が鳴る。

『鮎川の男嫌いの原因作った奴、分かったかも』
『普段大人しい鮎川が、マジで切れる寸前だった』
『元彼、すげー好印象だったのに、今はヤベー奴としか思えねー』
『一般来場者がいる前で、結構な修羅場感あったよ』
『彼氏として、ちゃんと癒してやれよ』

何だよ、このメール。
ってか、好印象がヤベー奴に置き換わるくらいの修羅場ってこと?

過去に何か原因があって、男を寄せ付けないようになったのは何となく予想してたけど。
一体、どんな男だよ。

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