『絶食男子、解禁』

彼女の自宅に程近い居酒屋で夕食をとることにした。

彼女の口から元彼とのことを聞き、何故『男は要らない』という思考に辿り着いたのか、知ることができた。
彼女が大学二年、彼が大学三年の時に付き合い始め、約一年ほど交際したという。
外見に無頓着だったという彼女が、奴に見合う彼女になりたくて、一生懸命努力したそうだ。

恋愛に興味もなかった彼女が、初めて好きになった男。
かたく結ばれていた蕾が芽吹き、綺麗に咲きほこる過程を見届けた男、西野 透。

俺は今の容姿しか知らないから分からないが、初心だった彼女を自分色に染めたかったのだろうか。
男なら誰しも思うだろう。
何色にも染まってない清らかな女の子を自分の虜にしたいという願望を。

けれど、奴は鮎川の一途な想いを踏みにじった。

『一年が過ぎた頃、別れ話も出てないのに、“彼女が欲しい”という男の人を紹介された』と聞かされた。
自分の女を他の男にあてがう行為。
それが何を意味しているのか、俺でも分かる。

ホテルのバーで紹介され、その男に無理やり部屋に連れ込まれたらしい。
ベッドに押し倒されて初めて、放心状態から我に返ったという。
その場から必死に逃げて、それを機に西野と連絡を絶ったと口にした鮎川。

男嫌い、非恋愛主義者になってもおかしくない。
いや、当然と言うべきか。

初めて恋した女の子の一途な想いが、重かったのか。
もっと気楽に付き合いたかったのか。
ただ単に、鮎川に飽きて、違う女がよくなってしまったのか。

当事者じゃないから分からないが、俺から見ても最低な野郎だというのは分かる。
例え別れたかったとしても、まともな人間なら決して選ばない選択だ。

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