『絶食男子、解禁』


再び目の前に現れた元彼。
別れた時に恐ろしいほど身に沁みたけれど、本当に常軌を逸している人だ。

楢崎には別れた経緯の一部を話したが、彼に話した話には続きがある。

元彼と別れて数日が経ったある日。
同じ講義を取っていた彼が、仲のいい友達に漏らしていたこと。

『あんな体だけの女、最初からヤる目的以外に何があるんだよ』
『一年も味わえば、十分だろ』
『就活もあるし、身の回りは整理しとかないと』
『けど、利用価値は十分にあったかな。中田先輩の伝手、得られたから』

女慣れしている彼に飽きられてしまっただけなら、まだ我慢できた。
飽きやすい男もいるだろうし、隣りの芝はよく見えるものだから。

浮気されることも、すぐに捨てられることも覚悟した上で付き合い始めたのだから。
一年も続いたのは本当に幸運だったとしか思えない。

だって彼は、私と付き合う前はしょっちゅう女の子を侍らしていて、彼女を作っても一カ月ともたない人だった。

私に隠れて浮気していたかもしれない。
恋愛に疎すぎて、見て見ぬふりしていたのかもしれないが…。
彼のあの言葉には、さすがに眩暈や吐気を覚えた。

中田先輩というのは、私に紹介した男性(増田)に彼女を寝取られたという先輩。
復讐のために増田の弱みを握りたかったらしく、後輩の西野に声をかけていた。

その中田という男は、STVの先輩アナウンサーだ。
元彼は、就職先の先輩に気に入られるために、私を売った。

一年もの間、優しい言葉をかけてくれたのも、全て偽物(まがいもの)
自分に好意を寄せる女を、出がらしが出るまで味わい尽くしたような男が、西野 透という男だ。

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