『絶食男子、解禁』
(西野視点)

初めて本気で好きになった女、鮎川 つぐみ。
大学の一年後輩で、見た目は凄く地味なタイプだったが、誰よりも心が綺麗だと感じた女性。

それまで『彼女』という存在がいなかったわけじゃない。
どちらかといえばモテる方で、女に不自由しなかった。

けれど、それは『好かれる』という関係性で、俺から好きになったことも恋に溺れることも一度もなかった。
そんな俺の前に現れたのが、つぐみだ。

サークルの後輩の田島 りりかが連れて来た子。
サークル活動も初めてというつぐみは今時の女子には珍しいタイプで、髪も服もメイクも気にせず、どちらかと言えば干物女といった印象だった。

『ボタン、取れかかってますよ』
カーディガンのボタンが取れかかっていると指摘し、その場でバッグからソーイングセットを取り出し、付け直してくれた。

俺の気を惹くために声をかけたのかと思ったが、それから数日したある日。
学食の入口に貼られていたポスターが剥がれかかっていて、彼女はわざわざ購買でセロテープを購入してそれを直した。

学食の職員に頼めばいいのに。
事務局の人に伝えればいいのに。
身銭を切ってまでそれをするような、心の綺麗な子だった。

俺に色目を使う女子は多かったが、頼まれもしないことを誰の目も気にせずにできるということが衝撃的で。
俺の心を奪った瞬間だった。

当時付き合っていた彼女と別れ、彼女に近づくタイミングを見計らって。
サークル内で少しずつ声掛けして、徐々に男としての意識を植え付けて。
そして、二カ月かかって遂に彼女にすることができた。

揶揄いだと思われても構わない。
付き合えれば、こっちもの。
初めて自分から好きになった女性(ひと)
ハンパな気持ちで彼女にしたんじゃない。

毎日が幸せで、ずっと続くと思ってたんだ。
この幸せな日常が。

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