『絶食男子、解禁』
予想外の包容力

「つぐみ、大丈夫?」
「……何とか、生きてる」

フェス三日目のあの日の夜。
修羅場のようなあのたった数分間の出来事が、瞬く間にSNSで流れてしまった。
一般人の私は実名も顔も伏せられている状態だけれど、有名アナウンサーの元彼は、一躍トレンドワードを独占するほど話題になった。

自業自得だ。
元カノであっても仕事で挨拶するまではヨシとしても、あんな風に人目がある中で行動に移すだなんて。

翌週の昼休みに、瞳に呼び出され、社食でランチ中。
楢崎は出張で福岡に行っていて、原はイベ後の片付けが忙しいらしい。

「後輩の子から写メ貰ったんだけど、西野アナと付き合ってたの?」
「シッ!……声落として」
「……ごめん。で、どうなの?」

一応社食の隅の席に座っているけれど、社内中に噂になっているらしく、チラチラと好奇な視線に晒されている。

「大学の時にちょっとだけ付き合ってたの」
「(まじで?)……何で別れたの?ってか、つぐみが絶食になったのは、彼が原因?」
「……ん」
「…そっかぁ。何かしら理由があるとは思ってたけど」
「ここじゃ話せないから、仕事終わりにご飯食べに行こ」
「うん!!お店予約しとく♪」

同期の中で、自分だけのけ者にされたという瞳。
そんなつもりは全くないんだけど、説明するにしても、社食じゃさすがに無理がある。



会社から程近い居酒屋『紋』の個室で夕食をとることになった。
前島課長からも夕食のお誘いがあったが、瞳の方が先約なため、課長には日をずらして貰った。

「ごめん、遅くなった」
「私もさっき来たとこだから」

先に幾つか注文してくれていたようで、卓上には既に料理が並んでいた。

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