『絶食男子、解禁』

「そんなことがあったんだね…」

ビールで乾杯し、元彼とのことを話した。

「冷静に考えても酷すぎる。そんなことしておいて、よく平気で声をかけてくるよね。挨拶程度ならまだしも、ご飯に誘うとか、常識的にありえない」
「……ん」
「女の子にモテすぎてて、つぐみにしたこと、綺麗さっぱり忘れてるとか?」
「……そうかも」
「された方は傷つくのにね」

元彼のことを一万歩譲って客観的に捉えても、到底許せるレベルじゃない。

「なんか原が言ってたみたいに、イメージと全く違うんだね」
「……そうだね。見た目はよく見えても、中身が釣り合うとは限らないよ」
「二十代前半ってさ、フォークのようなどこか鋭さのある人に惹かれるじゃない。日々の刺激というのか、体の相性的にも」
「……?」
「けどさ、二十代後半になると、スプーンのような人を自然と求めてるんだよね。ドキドキよりも包容力のある、安心させてくれる相手を」

なるほど。
そうかもしれない。

あの頃は少しくらい彼の粗が見えてても、全然気にもしなかった。
というより、その男性的な強引なところに惹かれていたように思う。

けれど、歳を重ね、今は優しく包み込んでくれる存在の方が気になってしまう。

「若い時はさ、リードして貰いたいとか思うけど、この歳になるとさ、対等な関係が心地よくない?無理に背伸びしなくていいしさ」
「……分かる」
「ただ単に恋愛がしたかった頃と違って、未来を期待させてくれる人が欲しくなるというか」
「……瞳って、本当に達観してるよね」
「そう?場数踏んでるだけじゃない?」

タコの唐揚げを頬張る瞳。
彼氏の愚痴ではない彼女の恋愛話は、意外にも初めてかもしれない。

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