『絶食男子、解禁』
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フェス会場に迎えに行った日の夜。
鮎川の元彼のことを同期の原にしつこく聞かれたが、本人の許可なく話すことはできないときっぱり断った。

けれど、一般来場者がアップしたSNS投稿が話題となり、あっという間に社内にも噂が飛び交った。

「楢崎、お前の彼女、アナウンサーと付き合ってたのか?」

直属の上司である真中さんの耳にも入ったらしい。
昼飯に誘われ、個室のある鰻屋で直球な質問が投げかけられた。

「……会社で何か対応するような話になってますか?」

ただ単に交際しているだとか、昔付き合っていたというくらいなら、何ら問題はない。
だが、相手が有名アナウンサーとなると話は別だ。
マスコミ対応をしなければならないし、社内に一定の通達を出すこともある。

「いや、今のところ上は何とも言ってないけど。これ以上大きくなるようなら、会社の株価にも関わって来そうだしな。そうなれば、ある程度の聴取はあるかもしれないな」
「……そうですか」
「ってことは、肯定と取っていいんだな」

質問に『はい』とは答えられない。
弁護士として噓の証言もできなければ、彼女を裏切るようなこともできない。

「質問を変えて下さい」

俺に言えるのはこれくらいだ。
俺の意図を酌んだ真中さんは、『喧嘩にならなかったか?』と切り替えてくれた。

俺らが本気で付き合っていると思っているから、俺らの仲を心配してくれている。

「元彼の一人や二人、いたとしても普通だろ。あんだけ美人なら」
「奥さんしか眼中にない真中さんの発言とは思えませんね」
「そうか?本当のことだろ。社内でも超人気の女神を五年かけて射止めたんだ。今を大事にしろよ」
「……はい」

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