『絶食男子、解禁』
『イイ女ほど、深い傷を抱えてるものだ』真中さんがポツリと呟いた。
何ら苦労もせず、我が儘し放題で生きて来た女性よりも、深い傷を負っている女性の方が何倍も魅力的だという。
辛い過去があるからこそ、たくさんの感情と向き合って過ごして来たはずだから。
価値観や金銭感覚も大事だが、心のリミッターを知っているか、知らないのとでは付き合いの時間や内容が変わって来るし、人間の器がそもそも違うという。
真中さんの奥さんは二歳年上のバツイチの女性だ。
体形のことを始め、家事の手際の悪さや友達との付き合い方など、結婚して一年が過ぎた頃からモラルハラスメントを受け続けていたそうだ。
友人の弁護士の所に離婚の相談に来所したらしく、真中さんが大学生時代からしている『キャンプ会』に、その友人が誘ったことがきっかけで知り合ったらしい。
現在では妻も子供も溺愛し、『定時で上がるぞ!』が口癖。
男の俺から見てもカッコいいし、仕事はできるし、何より人としての器が大きい。
どんな相談事にも乗ってくれる優しく頼りがいのある人だ。
「楢崎が非恋愛主義を貫いてたのは、彼女と知り合う前からだよな」
「……っ」
司法修習生時代にお世話になった弁護士に紹介され、真中さんとは学生の頃から知り合いだ。
一般的な弁護士事務所に勤務するという選択肢ではなく、法人弁護士という選択もあると現実を見せてくれた人だ。
民事裁判が一般的な弁護士事務所より、専門分野に特化した知識を活かせるという利点に憧れたのもある。
けれど、一番の理由はそれじゃない。
鮎川に誰にも知られたくない過去があるように、俺にも秘密にしたい過去がある。
俺は元々判事を目指していたが、とあることがきっかけで弁護士の道にシフトチェンジした。